東京高等裁判所 昭和59年(ネ)234号 判決
主文
本件各控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実
一 控訴人菊地照一、同金子恵美子、同畑隆を除くその余の控訴人ら一二名訴訟代理人は、「1 原判決中控訴人ら敗訴の部分を取消す。2 被控訴人の請求を棄却する。3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
二 当事者双方の主張及び証拠は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決の事実摘示と同一であるから、その記載を引用する。
1(一) 原判決三枚目裏五行目「英二を介して」の次に「由蔵から」を加え、九行目「占有を」の次に「無過失で」を加える。
(二) 同四枚目表七行目「占有を」の次に「無過失で」を加える。
(三) 同四枚目裏一行目「七名」を「六名」と改め、三行目「子、」を「鷹蔵の子」と改め、五行目「子、」を「玉江の子」と改め、八行目「孫」を「マサ子で右のとおりこれより先死亡した玉江の子である」と改める。
(四) 同五行目裏五行目「買い受けて以降、」を「買い受けてその引渡を受け、無過失で占有を始め、じ来」と改める。
(五) 同六枚目裏三行目「抗弁」を「抗弁及び主張」と改め、四行目「クマ死亡後」を「クマが死亡した昭和八年三月二四日以降は」と改め、七行目「魚乾燥場として」の次に「本件土地を」を加え、末行「あるから、」の次に「被控訴人は、」を加える。
(六) 同七枚目表二行目「抗弁」を「抗弁及び主張」と改める。
2 控訴人菊地照一、同金子恵美子、同畑隆を除くその余の控訴人ら一二名の主張
(一) 原判決は、被控訴人の父須田英二及び被控訴人の兄須田成一が昭和三六年九月一日から昭和五六年九月一日までの二〇年間被控訴人の占有補助者として、所有の意思をもつて平穏かつ公然に本件土地を占有したから、被控訴人は昭和五六年九月一日本件土地の所有権を時効によつて取得した旨認定しているが、右認定は事実を誤認したものである。
新潟県が昭和三七年度道路改良事業を施行し、そのころ本件土地中県道に面する部分を買収した際、英二は、間島クマの相続人間島マサの印章を偽造して新潟県からその買収費を受領した。井坂善嗣は、クマの相続人から本件土地の管理を依頼されていたが、昭和三八年ごろ英二が右買収費を受領した事実を知り、同人に対しクマが本件土地を他に売却した事実はないので、右買収費の受領は不当である旨を申し入れてその返還を受けた。したがつて、被控訴人及び英二は、その翌年の昭和三九年一月から本件土地を所有の意思をもつて平穏かつ公然に占有していたとはいえない。
また、被控訴人は、昭和五六年五月九日付佐和田町町長作成の証明書(甲第一九号証)により、本件土地についての固定資産税等はクマの相続人である控訴人間島賢司が昭和五二年度以降分を支払つている事実を知りながら、被控訴人自身がその支払をしたことがなかつた。したがつて、被控訴人は、昭和五二年から本件土地を所有の意思をもつて平穏かつ公然に占有していたとはいえない。
更に、被控訴人は、昭和五六年七月一一日原裁判所に対し本訴を提起したから、その後本訴係属中は本件土地を平穏かつ公然に占有していたとはいえない。
(二) 仮に被控訴人が昭和三九年九月一日から本件土地を所有の意思をもつて占有していたとしても、加藤義行は、昭和五六年ごろから本件土地を占有していたから、被控訴人の本件土地に対する取得時効は、これにより中断された。
もつとも、被控訴人の父須田英二は、加藤義行が本件土地を不法に占有するものであるとして、昭和五六年新潟地方裁判所佐渡支部に対し同人を相手方として本件土地中原判決添付別紙物件目録記載二の土地(以下「本件二の土地」という。)について不動産占有移転禁止等仮処分命令の申請をし(同裁判所昭和五六年(ヨ)第六号事件)、同年六月一六日その旨の仮処分命令を得て、そのころその執行をし、次いで、昭和五六年同裁判所に対し加藤義行を相手方として本件二の土地について占有回収請求訴訟を提起した(同裁判所昭和五六年(ワ)第二九号事件)。しかるに、英二は、その後右仮処分命令申請及び訴訟を取り下げたから、英二及び被控訴人は、加藤義行が本件土地を右のとおり占有していることを承認したものである。
3 被控訴人の主張
(一) 前記控訴人の主張(一)、(二)は争う。
(二) 被控訴人の父須田英二が新潟県から昭和五七年の道路改良事業の買収費を受領した経過は、次のとおりである。
間島クマは、昭和六年四月ごろその弟である石塚勘七の長男石塚伝蔵に対し本件土地を売渡し、伝蔵は、昭和二四年一月ごろその長男石塚由蔵に対し本件土地を贈与し、由蔵は、昭和三六年九月一日英二を介しその二男被控訴人に対し本件土地を売渡した。
ところが、新潟県の土地買収費の支払事務を担当していた佐和田町役場係員は、昭和三七年本件土地の一部の買収費一万九〇〇〇円を由蔵に交付しようとしたが、由蔵は、そのころ被控訴人の代理人として英二を同行して佐和田町役場に赴き、右係員に対し本件土地の所有者が被控訴人である旨を説明したうえ、その場で英二に対し由蔵が保管していたクマの印章を交付し、英二をして右印章を使用して右買収費を受領させた。なお、英二は、右印章を偽造したものではなく、その後は右印章を保管している。
英二は、昭和三七年ごろ井坂善嗣に対し二万円を交付したことはあるが、右買収費を返還したものではない。すなわち、井坂は、そのころ英二の近隣に居住していたところ、英二の次男被控訴人が右のとおり由蔵から本件土地を買受けたが、本件土地の登記簿上の所有名義人クマが死亡し、その相続人が各地に散在していて所有権移転登記手続をすることができないのを知り、英二に対し自分に二万円を交付すれば、右登記手続をする旨を申し入れ、英二から二万円の交付を受けた。英二は、井坂の紹介により大谷司法書士に対し右登記手続を依頼したが、結局被控訴人のため本件土地について右登記手続をすることができず、井坂から右二万円の返還を受けることもできなかつた。
(三) 控訴人間島賢司が本件土地の固定資産税を支払つているとしても、その事情は次のとおりである。
佐和田町は、昭和五二年ごろ本件土地について課税をするについて被控訴人を調査したので、被控訴人は、同町に対し本件土地の所有権が前記(二)記載のような経過により被控訴人に帰属しており、ただ、その所有権移転登記手続をすることが困難であるが、納税をしたい旨を申し入れた。これに対し、佐和田町は、クマの相続人を探すが、その相続人の所在が不明であり、又はその相続人が納税しないときは、被控訴人が納税されたい旨を答えていた。その後、佐和田町は、クマの相続人として控訴人間島賢司を探知し、同控訴人が固定資産税を納付するようになつたにすぎない。
(四) 加藤義行が本件土地の一部を使用していたとしても、その事情は次のとおりである。
被控訴人の父須田英二は、かねてから海産物の加工販売業を営み、昭和一五年ごろより石塚伝蔵から本件土地を魚類の乾燥場及び加工場として賃借使用し、付近の女子十数人を人夫として雇用し、その乾燥及び加工作業に従事させていたところ、本件土地の隣接地に居住する加藤フサも右作業に従事していた関係上、英二は、フサの子義行に対し本件土地のうち右作業に支障のない場所に無償で自動車を駐車させることを承諾していたにすぎない。
4 証拠<省略>
理由
一本件記録によれば、控訴人菊地照一、同金子恵美子、同畑隆(以下「控訴人菊地ら三名」という。)を除くその余の控訴人ら一二名(以下「控訴人ら一二名」という。)は、被控訴人を相手方として本件控訴を提起したところ、控訴人ら一二名は、被控訴人の本訴請求中主位的請求について不服申立をせず、予備的請求についてのみ原判決の取消を求めるものであることが明らかである。そして、本件記録によれば、被控訴人の予備的請求は、所有権に基づき、本件土地の所有名義人の共同相続人である控訴人らに対し本件土地について時効取得を原因とする所有権移転登記手続を求めることが明らかである。
ところで、所有権に基づき、不動産の所有名義人の共同相続人らに対し所有権移転登記手続を求める訴訟においては、共同相続人らは、必要的共同訴訟人の地位にあるものと解すべきである。したがつて、本件予備的請求においては、控訴人ら間には必要的共同訴訟の関係があるから、控訴人ら一二名の被控訴人に対する控訴の申立は控訴人菊地ら三名のためにも効力を生じ(民事訴訟法六二条二項)、控訴人菊地ら三名は、当審において控訴の申立をしなくても控訴人の地位に立つものと解すべきである。
二そこで、被控訴人の控訴人らに対する予備的請求について判断する。
1 控訴人菊地ら三名は、いずれも適式な呼出を受けながら原審及び当審における口頭弁論期日に出頭せず、被控訴人の主張事実を争つたと認めるに足りる答弁書その他の準備書面をも提出しないので、民事訴訟法一四〇条三項により被控訴人の主張事実を自白したものとみなされる。ところで、本件予備的請求においては、前述のとおり控訴人ら間には必要的共同訴訟の関係があり、控訴人菊地ら三名の右自白は、控訴人ら一二名が被控訴人の主張事実を認める限度において効力があるが、控訴人ら一二名が被控訴人の主張事実を争う以上その効力がないものというべきである。
原判決事実摘示被控訴人の請求原因1、8の事実は、被控訴人と控訴人ら一二名との間においても争いがない。
2 右当事者間に争いのない事実、<証拠>及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
(一) 間島クマは、前記のとおり本件土地を所有していたところ、その生存中弟である石塚勘七の長男石塚伝蔵に対し本件土地の一部を畑として耕作使用させていたが、伝蔵が死亡した昭和二四年一月八日以降は伝蔵の長男石塚由蔵及び伝蔵の内妻岩崎マサに対し本件土地の約二分の一ずつを畑として耕作使用させていた。
(二) 須田英二及びその先代は、かねてより須田勝次郎商店の商号を使用して海産物の加工販売業を営み、昭和一五年ごろより伝蔵から本件土地を借受け、海産物の乾燥場及び加工場として使用し、近隣の女子十数名を人夫として雇用していたことがあつた。
ところで、英二の長男須田成一は、昭和三二年一二月二八日ごろ兵庫久一から本件土地の周辺の土地である新潟県佐渡郡佐和田町大字窪田字砂原七六六番二宅地一四〇・八一平方メートル、同所七六六番四宅地四六・一五平方メートル、同所七六七番二宅地八三・五五平方メートル、同所七六五番二宅地五九・六二平方メートル、同所一一〇六番二雑種地一五八平方メートル及び右七六六番二、七六五番二、七六六番四の各土地上の建物を買受けてその所有権を取得し、昭和三二年一二月三〇日右土地五筆について所有権移転登記手続を経由した。
英二は、成一が昭和三二年一二月二八日ごろ右土地五筆及び建物一筆を取得してから、右土地及び建物を右海産物の乾燥場及び加工場として使用してきたほか、そのころ石塚由蔵から右一一〇六番二土地の西側に隣接する同所一一〇六番一二雑種地八〇平方メートル、右土地と県道との間に存在する本件土地、同所七六五番五畑五三平方メートル及び同所七六七番四畑一〇坪を借受け、海産物の乾燥場として使用してきた。
なお、当時本件土地中の本件二の土地は、八九平方メートルであり、その後昭和四六年七月一三日右七六七番四土地を合筆して一七四平方メートルとなつた。
(三) 英二は、その後由蔵から右貸与にかかる本件土地、一一〇六番一二、七六五番五、七六七番四の各土地が由蔵の所有であるとして、その買受方を申し込まれたので、協議した結果、英二の二男被控訴人が右各土地を買受けることとした。
被控訴人は、昭和三六年九月一日英二を代理人として由蔵から右各土地を代金二五万五〇〇〇円で買受ける契約を締結して右各土地の引渡を受け、同年一〇月二四日右一一〇六番一二土地について所有権移転登記を経由した。
ところで、被控訴人の代理人英二は、右売買契約当時本件土地及び右七六七番四土地の登記簿上の所有名義人がクマであることを知つていたが、被控訴人及び英二は、右各土地が真実売主である由蔵の所有に属するかどうかについて調査をしなかつた。
(四) 新潟県は、昭和三七年度県道拡張事業の施行として、昭和三八年三月二五日被買収人をクマの相続人間島マサ名義として右七六七番四土地のうち九・七五坪を買収したが、その際、由蔵及び被控訴人の代理人英二は、右マサ名義で同県の買収手続に参加し、同年中に由蔵がクマから預つていたと称する間島名義の印章を使用し、英二が同県から買収費一万九五〇〇円を受領した。
(五) 昭和五八年ごろから本件土地中の本件二の土地の県道に面した部分は被控訴人らが駐車場として使用し、その余の部分の一部は英二の長男成一がその所有の物置の敷地として使用し、更に、その一部は英二及び成一が海産物の乾燥場として使用している。
以上の事実が認められ、<証拠>中右認定に反する部分は、前掲各証拠に対比してにわかに採用することができず、<証拠>をもつて右認定を左右するに足りず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
右認定事実によれば、被控訴人は、昭和三六年九月一日本件土地の占有を始め、その後は、主として被控訴人の父英二が被控訴人の占有補助者として海産物加工業のために占有使用してきたものであり、被控訴人の本件土地に対する占有は、被控訴人主張の昭和四六年九月一日又は昭和五六年九月一日までの間継続していたものと推定され、また、被控訴人は、その間本件土地を所有の意思をもつて善意、平穏かつ公然に占有してきたものと推定される。
また、右認定事実によれば、被控訴人の代理人英二は、由蔵から本件土地を買受けた際、本件土地の登記簿上の所有名義人がクマであることを知つていたが、被控訴人及び英二は、本件土地が真実売主である由蔵の所有に属するかどうかについて調査をしなかつたから、被控訴人は、本件土地の占有を開始するにあたり本件土地の所有権を取得したものと信じたことに過失があつたものというべきである。
3 控訴人ら一二名は、被控訴人は本件土地を所有の意思をもつて平穏かつ公然に占有したものではない旨主張し、前述した本件訴の性質上控訴人菊地ら三名も同一の主張をしたものと解されるので、検討する。
前記2に認定した事実、<証拠>を総合すれば、次の事実が認められる。
(一) 被控訴人は、昭和三六年九月一日由蔵から本件土地を買受けてその所有権を取得したものと信じて本件土地の引渡を受け、それ以来本件土地を占有使用してきたが、本件土地の登記簿上の所有名義人クマの相続人の所在等が不明であつたため、本件土地について所有権移転登記手続をすることができなかつた。
(二) 被控訴人の代理人英二は、前記のとおり昭和三八年新潟県から県道拡張事業により前記七六七番四土地のうち九・七五坪を買収されたことによる買収費一万九五〇〇円を受領したが、右金員をクマの相続人側に返還した事実はなかつた。ただ、英二は、そのころ近隣に居住する井坂善嗣からクマの相続人を調査して本件土地について被控訴人のため所有権移転登記手続をしてやるので、二万円を交付して貰いたい旨の申入を受け、同人に対し右登記手続等を依頼し、二万円を交付したことがあつた。
(三) 被控訴人は、昭和五二年ごろ佐和田町から本件土地の課税に関する調査を受けた際、被控訴人が本件土地の所有者であるので、本件土地の固定資産税等を負担したい旨を申し出た。これに対し、佐和田町は、クマの相続人を探したうえで被控訴人に納税させるかどうかを決定したい旨を回答し、その後クマの相続人である控訴人間島賢司を探知したため、同控訴人が昭和五二年度分からの本件土地の固定資産税等を支払い、被控訴人がその支払をするに至らなかつた。
以上の事実が認められ、<証拠>中右認定に反する部分は、前掲各証拠に対比してにわかに採用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
右認定事実によれば、被控訴人は、昭和三六年九月一日から所有の意思をもつて平穏かつ公然に本件土地を占有してきたものと認めるのが相当である。
なお、控訴人ら一二名は、被控訴人が昭和五六年七月一一日原裁判所に対し本訴を提起したから、その後本訴係属中は本件土地を平穏かつ公然に占有していたとはいえない旨主張し、控訴人菊地ら三名も同一の主張をしたものと解されるところ、被控訴人が右のように本訴を提起したからといつて、被控訴人の本件土地の占有が平穏かつ公然ではないと解することができない。
したがつて、控訴人らの前記主張は採用することができない。
4 控訴人ら一二名は、加藤義行が昭和五六年ごろから本件土地を占有しているから、被控訴人の本件土地に対する取得時効はそのころ中断された旨主張し、前述した本件訴の性質上控訴人菊地ら三名も同一の主張をしたものと解されるので、検討する。
前記2に認定した事実、<証拠>を総合すれば、次の事実が認められる。
(一) 被控訴人の父英二は、被控訴人が昭和三六年九月一日由蔵から本件土地を買い受けた後も、本件土地を海産物の乾燥場及び加工場として使用し、近隣の女子十数名を人夫として雇用してその乾燥及び加工作業に従事させていた。ところで、英二は、昭和三六年ごろ右人夫の一人である加藤フサを介して同人の子加藤義行から本件土地の一部に自動車を駐車させてほしい旨を申し入れられたのでこれを承諾し、加藤義行は、そのころから主として夜間に右作業に支障のない場所に無償で自動車を駐車させていた。
(二) 加藤義行は、昭和五六年四月ごろに至り、控訴人間島賢司から本件土地を買受けたが、同年五月五日ごろ被控訴人が知らない間に本件土地の一部に土砂を搬入した。そこで、被控訴人の父英二は、そのころ新潟地方裁判所佐渡支部に対し加藤義行を相手方として本件土地中本件二の土地について不動産占有移転禁止仮処分命令の申請をし(同裁判所昭和五六年(ヨ)第六号事件)、昭和五六年六月一六日その旨の仮処分命令を得てそのころその執行をし、次いで、同年同裁判所に対し加藤義行を相手方として本件二の土地について土地占有回収請求訴訟を提起した(同裁判所昭和五六年(ワ)第二九号事件)。
なお、英二は、その後昭和五七年七月一日右仮処分命令申請及び訴訟を取り下げた。
以上の事実が認められ、<証拠>右認定に反する部分は、前掲各証拠に対比してにわかに採用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
右認定事実によれば、加藤義行は、昭和三六年ごろ英二の承諾を得て本件土地のうち英二の海産物の乾燥及び加工作業に支障のない場所に自動車を駐車させ、また、昭和五六年五月五日ごろ被控訴人の知らない間に本件土地の一部に土砂を搬入したことがあつたが、本件土地について排他的な支配状態を継続して占有したものではなく、被控訴人の本件土地についての占有という事実状態を破壊したものとは認められない。
したがつて、加藤義行の本件土地に対する右自動車の駐車及び土砂の搬入は、法定の時効中断事由(民法一四七条、一四六条参照)のいずれにも該当せず、被控訴人の本件に対する取得時効を中断するものとはいえないというべきである。
よつて、控訴人らの前記主張は採用することができない。
5 以上の事実によれば、被控訴人は、昭和三六年九月一日から所有の意思をもつて善意、平穏かつ公然に本件土地の占有を継続し、その占有を開始するにあたり、本件土地の所有権を取得したものと信じたことについて過失があつたものというべきである。
したがつて、被控訴人が本件土地の占有を開始した昭和三六年九月一日の翌日である同年九月二日から起算して二〇年を経過した昭和五六年九月一日の経過により本件土地について被控訴人のために取得時効が完成し、被控訴人は、占有開始の日である昭和三六年九月一に遡つて本件土地の所有権を取得したものというべきである。
三そうすると、控訴人らに対し所有権に基づき、本件土地について被控訴人のため右時効取得を原因とする所有権移転登記手続をすることを求める被控訴人の予備的請求は正当として認容すべきである。
よつて、原判決は相当であつて、本件各控訴は理由がないからいずれもこれを棄却し、控訴費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条、九三条一項本文を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官佐藤榮一 裁判官篠田省二 裁判官関野杜滋子)